研究主題
他者を尊重し、責任をもって行動する子どもを育む研究
~教科等横断的な視点に立った授業デザインと意思決定につながる学習展開の工夫を通して~
主題設定の理由
今日的な課題 学習指導要領等から
Society5.0 時代の到来やグローバル化等により急速に社会が変化し、予測が困難な時代になっている。そのような情勢の中で、平成29年度告示の学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」による資質・能力の育成を図り、「持続可能な社会の創り手」の育成を目指して、「何を学ぶか」だけにとどまらず、「どのように学ぶか」や「何ができるようになるか」が重視されている。さらに、学習指導要領総則2(1)では、「各学校においては、児童の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図る」ことが求められている。
また、2022年6月内閣府発行の「Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関するパッケージ」において、一人一人の多様な幸せ(Well-being)の実現のためのロードマップの1つとして、多様な子どもたちに対してICTも活用し個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させることが述べられている。
十勝の現状から
十勝教育研究所が令和6年1月から2月にかけて、十勝管内の教職員へアンケート調査を行った。①リテラシーに関する設問では、「情報を読み取る力や責任をもって発信する力」が最も必要と選ばれた。真偽を確かめる力(ファクトチェック)を育成していくことは、喫緊の課題となるだろう。一方で、②モラルに関する設問では、「ルールやマナーを守る力」が過半数を超える結果となっている。


また、自由記述欄をAIテキストマイニングで集計すると右図のような結果となった。「活用」のほか、「モラル」「指導」という名詞のポイントが高い。さらに、「正しい」「望ましい」「難しい」という形容詞もあることから、課題意識はあるものの、その解決や実現に難しさを抱えているのではないかと推察される。加えて、「つながる」「感じる」という動詞のポイントも高いことから、他者への意識や関わり方についても必要感があるのではないかと考えられる。
併せて、記述内容を生成AI(ChatGPT)で要約すると、以下のように表された。
ICTの活用は重要だが、一方で教師の指導力や保護者の理解、情報モラルの教育など、課題も多い。子どもたちの視力低下や健康への影響、情報の信頼性や適切な使い方の指導、機器の更新やトラブルへの対応などに不安がある。また、学校間や教師間の活用の差や、家庭でのルールや管理の問題も指摘されている。ICTの活用はバランスが重要であり、情報モラルやモラル教育の重要性も強調されている。ICTの活用に伴う情報モラル教育の変革も考えていかなければならない。
このように、急速にデジタル化が進み、情報に囲まれている時代に生きる子どもにとって、情報モラルの育成に関する課題や教師がもつ不安も見受けられる結果となった。
1年次の研究について
1年次は、研究の仮説を「特別活動において、日常モラルを生かした学習内容と一人一人が意思決定する学習展開の工夫を通して、他者を尊重し、責任をもって行動する子どもが育まれるであろう」とし、授業を通して研究を推進してきた。また、研究の成果を様々な視点から検証できるように、小学校、中学校ともに、授業実践前に1回目、授業実践終了後に2回目のアンケートを実施した。(詳細については、研究紀要No.219を参照)アンケートの結果からは、相手意識をもつことや前向きな意思決定をしているなど、一定の成果を得ることができたと考える。一方で、特定の場面のみに関して気を付けるような記述があったことなどに課題が残った。

今年度の研究の方向性
2年次の研究は、2年次の研究の成果を生かしつつ、研究主題である「他者を尊重し、責任をもって行動する子どもを育む」ことについて更に研究を深めていくこととする。
1年次では、特別活動における、学級活動⑵を主に取り扱い“つかむ-さぐる-見つける-決める”という学級活動の学習の流れに沿った授業を計画した。事前アンケートを活用し、子どもの実態を踏まえたり題材に関わる意見を収集したりすることで、題材を自分事として捉えることができた。また、日常生活上やオンライン上での今後の行動について、疑似体験や友達との議論を通して他者の多様な考えや感じ方に触れながら自分の考えを再形成したうえで意思決定につなげることができた。
一方で、この学級活動だけでは、育成したい情報活用能力を網羅しきれないという課題が残ったことから、特別活動だけではなく、全教育活動の中で育成していく必要があるだろう。発達段階や子どもの実態に応じて、各教科等の特性を生かしながら、連携・連動して多様な方法で取り組む必要があると考えられる。
以上のことから、2年次の本研究の方向性は、
特別活動を中心に据えながら、教科等横断的な視点に立ち、題材に合わせて各教科等と連携する工夫や意思決定につながる学習展開の工夫を通して、他者を尊重し、責任をもって行動する子どもを育むこと
を目指し、本主題を設定する。
研究の仮説と構造図
研究の仮説
特別活動を中心にした、事前アンケートを基にして、教科等横断的な視点に立ち、題材に合わせて各教科等と連携する授業デザインの工夫と情報技術の仕組みの理解をした上で行動の選択肢を議論することで意思決定につながるような学習展開の工夫を通して、他者を尊重し、責任をもって行動する子どもが育まれるであろう。
研究構造図

研究の視点と内容
研究の視点
本研究における「他者を尊重し、責任をもって行動する子ども」
本研究では、目指す子ども像を、「他者を尊重し、責任をもって行動する子ども」とする。
「他者を尊重し」とは、「多様な他者を理解し、相手の意見を聴き自分の考えを正確に伝えることができる」ことである。平成23年中央教育審議会の答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育のあり方について」では、キャリア教育において育成すべき力「基礎的・汎用的能力」として、「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」、「課題対応能力」、「キャリアプランニング能力」の4つの能力が示されている。
特に、「人間関係形成」は、特別活動において育成を目指す資質・能力の3つの視点のうちの1つとされており、子ども一人一人が互いを尊重し、よさや可能性を発揮し、生かし、伸ばし合うなど、よりよく成長し合えるような集団活動としていくことが求められている。これらは、生徒指導提要の内容とも合致する。
「責任をもって行動する」は、2019年にOECDから発表された「ラーニングコンパス(学びの羅針盤)」の中心的な概念である「エージェンシー」と重なる。「エージェンシー」は、「自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力」と表されており、予測が困難な状況を乗り越えていくためには、「結果の予測(目標設定)」や「目標実現に向けた計画立案」「自分が使える能力や機会を評価・振り返り、自身のモニタリング」「逆境の克服」などの多様な能力が必要とされると述べられている。
また、子ども自らの目標設定やその実現には、自分たちの欲求の実現にとどまらず、自分たちが所属する社会に責任を負うことが求められており、自らの目標や実現のための行動が、社会にどう受け止められるのかを考えたり、振り返ったりする能力も重要視されている。
これらのことから、「責任をもって行動する」ことは、自らを律し、自己を振り返る能力を身に付け、その後のよりよい行動を考えることができる力ということができるだろう。
そこで、本研究では、「他者を尊重し、責任をもって行動する子ども」を次のように考える。
| 本研究における「他者を尊重し、責任をもって行動する子ども」 ・多様な他者を理解し、相手の意見を聴き、自分の考えを正確に伝えることができる子ども ・自らを律し、自己を振り返る能力を身に付け、その後のよりよい行動を考えることができる子ども |
情報活用能力
学習指導要領にある「情報活用能力」は、情報及び情報手段を主体的に選択し、活用していくための個人の基礎的資質であり、文部科学省では、右図のように3観点8要素に整理している。この3つの観点が相互に関連し、連携して発揮されるべき力とされている。
これらの能力を身に付けることで、将来、様々な情報を活用して、自分の考えを形成したりほかの人と協力して新しい価値を生み出したりすることができるようになると述べられている。
そのためには、細分化された8つの要素を、情報を使う際の具体的なスキルや考え方として捉え、授業を展開し、子どもたちが身に付ける必要があると考える

情報モラル教育
学習指導要領では、「情報活用能力(情報モラルを含む)」は、言語能力と同様に、「学習の基盤となる資質・能力」とされている。中でも情報モラルは、下図のように「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」と定義され、「各教科等や生徒指導との連携を図りながら実施すること」が重要とされている。
一方で、指導に関しては、アンケート結果から前述したとおり、多くの先生方が困り感を抱えており、「継続的、日常的に指導することの必要性」「子どもの実態が分からない」「詳しくないので指導しづらい」なども挙げられている。
これらのことから、事前アンケートから子どもの実態を把握した上で、情報機器の活用場面を具体的に想起し対応を考える活動を通じて、情報モラルの「他人への影響を考える」「自他の権利を尊重する」「行動への責任をもつ」などについて考えることで、本研究主題である「他者を尊重し、責任をもって行動する子ども」の育成につながると考えた。

研究の内容
本研究では、他者を尊重し、責任をもって行動する子どもを育むための具体的な内容として、教科等横断的な視点に立った授業デザインの工夫(研究内容1)と、意思決定につながる学習展開の工夫(研究内容2)の2つを行うこととする。
教科等横断的な視点に立った授業デザインの工夫
事前アンケートの活用
令和2年6月に文部科学省から出された「教育の情報化に関する手引き―追補版―」(以下、手引き)では、「児童生徒の情報活用能力がどの程度育成されているか、本体系表例を実態把握に活用するとともに、各学校・学年の実態に応じた育成及び指導の改善・充実を行う目安としても活用するという一連の流れが重要である」と述べられている。子どもたちのデジタル機器を使う頻度が高まっている中、どれだけの時間やどのような場面で使っているのか、そこにどのような傾向があるのかなどについて、しっかり押さえた上で授業づくりを行うべきだろう。
そこで、事前アンケートを実施し、子どもたちのデジタル機器の状況の傾向をつかむ。これにより、どのような問題場面に出合わせるかを検討し、より「自分事」として考えやすい環境を整えることで、「他者を尊重し、責任をもって行動する子ども」を育成することができると考えた。
また、実態を踏まえた上で、適切な題材を選択することも重要だと考える。現在、様々な機関のHPには、多種多様な教材が公開されている。必要に応じて活用し、実態に合った題材・教材づくりを進めたい。
題材に合わせた各教科等+特別活動の組み合わせ
上記のように、事前アンケートから児童の実態をつかんだ上で題材を設定する際には、教科等横断的な視点から特別活動と各教科等を連携させ授業をデザインすることで、より効果的に情報モラルの育成を行うことができると考える。上図「小学校学習指導要領解説総則編における情報モラル関係の記述概要」の下部には、「さらに」として、「情報モラルに関する指導は、道徳科や特別活動のみで実施するものではなく、各教科等との連携や、さらに生徒指導との連携も図りながら実施することが重要である。」とまとめられていることからも、この授業デザインの工夫が必要だと考えている。


1年次の研究では、上図のような教科間の関連を見出して関連付けを行った。しかし、あくまで関連する内容として取り上げたにすぎず、具体的な連携については弱い部分があった。
2年次の研究では、題材設定時に、関連する内容を具体的に想定し、直近の授業において取り上げることで、より深い情報技術の仕組みの理解や、行動の選択肢の議論をすることができるのではないかと考えた。
図①でいえば、道徳科と関連付け、節度、節制や規則の尊重、社会正義などといった情報モラルに含まれるであろう内容項目や、情報技術の仕組みの理解に関する内容をじっくり押さえることで、直後の学級活動において、行動の選択肢の議論の時間を十分に確保し、今後の行動に関わる意思決定をすることができるのではないかと考える。
また、図②でいえば、社会科において情報モラルについて取り上げた後に、学級活動で議論することで、より深く理解をしたうえで、今後の行動に関わる意思決定することができるのではないかと考える。
学級活動の授業をデザインする際には、本時の活動のほか、事前の指導と子どもの活動、事後の指導と子どもの活動をまとめて考えていくことで、他教科との連携を一体的に実現していく。

意思決定につながる学習展開の工夫
情報技術の仕組みの理解
手引きによると、情報モラルは、「日常モラル+情報技術の仕組みの理解」とされている。情報モラルを発揮した上で情報技術の仕組みを理解することができれば、もし具体的なトラブル場面に遭遇したときにも、落ち着いて状況を整理し、その後のよりよい行動へつなげられるようになるだろう。

そこで、授業の中で具体的な問題場面に出合った際に、どのような特性によって、その問題が発生しているのかを冷静に見極める場面を設定する。インターネット上のコミュニケーションも日常生活と同様に、画面の向こう側に人がいることを意識させることが重要であると考える。顔が見えない分、日常生活以上に勘違いが起こる可能性は高く、注意すべき点があるということについて理解を深めることが必要であろう。個々にもっている日常モラルを活用して、問題場面について「自分事」として考えることが、「他者を尊重する」子どもにつながる工夫である。
行動の選択肢の議論
「行動の選択肢の議論」とは、デジタル上の問題へ対応するため、実現可能な行動の選択肢を考え、議論をすることを指している。ここでいう議論は、討論とは異なり、自分の意見を表明したり、相手の意見を聴いたりすることで、改めて自分の考えを形成していく活動を指すこととする。結論を出すための作業ではなく、様々な立場や考え方に触れることで、多様性を認め、「他者を尊重する」子どもを育むことができるのではないかと考える。議論の際にはICTを効果的に活用していくことで、思考を整理したり、即時的に意見を共有したりすることができるだろう。
また、行動の選択肢について、子どもがメリット・デメリット等を考える活動をとおして、異なる意見を受け入れたり、更に別の解決方法を見いだしたりすることが、その後の展開における意思決定に生きるだろう。そのため、決して、結論を1つにするような方法は取らないように留意することが大切である。
さらに、前向きな対処法を考えることを重視することで、「危険だから使わない、全く触れない」という思考ではなく、「身の回りにあふれている情報や情報機器をよりよく活用をしていく」という姿勢が育まれる。そして、「正しく理解して、もっと便利に、もっと楽しく、幸せな社会生活ができるように活用する力をつけよう」というウェルビーイングにつながるポジティブな学びを通して、「責任をもって行動する」スキルを獲得するようになるであろう。この行動の選択肢の議論は、社会参画の観点からもとても重要であると考える。
このように、行動の選択肢を議論した上で、前向きな対処法を追求することを通して、他者の考え方に触れ、情報技術への理解を深めながら、自己の行動について考えることが、「他者を尊重し、責任をもって行動する子ども」の育成につながると考える。
検証計画
検証内容
① 教科等横断的な視点に立った授業デザインの工夫により、他者を尊重し、責任をもって行動をしようとすることができていたか。
② 意思決定につながる学習展開の工夫により、他者を尊重し、責任をもって行動をしようとすることができていたか。
検証方法
① ノートや端末などへの記述の見取り
② 題材前後の子ども・授業者へのアンケート調査・インタビュー調査の分析(全体・抽出)
③ 授業に参加する姿からの見取り
④ 長期休業明けの追跡アンケート調査
研究協力校・研究日程
研究協力校
幕別町立幕別小学校 校長 森 浩嘉 研究協力員 石川 諒
足寄町立足寄中学校 校長 阿部 昌巳 研究協力員 井脇 功陽
スケジュール
| 月 | 研究の推進内容 | 諸会議 |
|---|---|---|
| 4 | ・研究主題、研究計画等の作成 | 十勝教育研究所業務計画会議 |
| 5 | ・研究の視点、方向性の確認 | 十勝教育研究所運営委員会 |
| 6 | ・研究協力員の委嘱及び研究の概要説明 ・理論研究 ・子どもたちの実態把握 | 第1回協力員会議(6/3) 十勝教育研究所調査委員会 第2回協力員会議(6/26)【Zoom】 |
| 7 | ・研究実践計画と検証実践計画の策定 ・授業実践における検証方法の検討 | 十勝教育研究所モニター会議 第3回協力員会議(7/24)【Zoom】 |
| 8 | ・授業実践1・2の内容検討 | 第4回協力員会議(8/26)【Zoom】 |
| 9 10 | ・授業実践1の実践(9/16) ・子どもたちの変容の分析、授業実践の分析 ・協力校での継続的な実践 ・授業実践3・4の内容検討 ・授業実践2の実施(10/7) ・授業実践3の実践(10/14) | 第5回協力員会議(9/9)【Zoom】 第6回協力員会議(9/16) 第7回協力員会議(9/30)【Zoom】 第8回協力員会議(10/7) 第9回協力員会議(10/14) 第10回協力員会議(10/23)【Zoom】 |
| 11 12 | ・授業実践4の実践(11/4) ・2年次、2か年の検証 ・研究紀要原稿の検討 ・HP用動画づくり ・研究発表大会用スライド作成 | 第11回協力員会議(11/4) 十勝教育研究所モニター会議 |
| 1 | ・研究発表大会打合せ、リハーサル ・研究のまとめ | |
| 2 | ・研究発表大会(2/3) ・研究紀要完成(HP公開) | 十勝教育研究所研究発表大会 |
授業実践
指導案・授業記録
授業実践1・2(小学校)

授業実践3・4(中学校)

研究のまとめ
研究の内容1 教科等横断的な視点に立った授業デザインの工夫について
研究内容1では、事前アンケートを活用し子どもたちの実態を把握した上で、特別活動(学級活動)を中心に据えつつ、各教科等と連携し、効果的に情報モラルを育成するための授業設計を検証した。
事前アンケートの活用


授業の導入でアンケート結果を活用
〇 事前アンケートの活用は、子どもたちの情報活用能力の実態と課題を正確に把握し、研究主題の具現化につながる効果的な授業デザインを構築するための基盤として機能した。
〇 子どもの大多数が生成AI(ChatGPTやGeminiなど)の意図的な活用経験が乏しいこと、また、Google検索のページ上部に表示されるAI Overviews(AIによる概要)を、生成AIが作成したものだと認識している子どもは少なかったことを踏まえた上で、授業デザインを行うことができた。
授業者の声事前アンケートをすることで、きちんと実態把握をすることができました。また、その結果を活用することで、実態に合わせた題材を取り上げることができ、多くの子どもが目標を達成することができていたと思います。
〇 子どもの多くはSNSを用いた他者とのコミュニケーションについて適切な認識をもっていると判断された。一方で、真偽が定かではない情報を信じたり、情報をうのみにして教室内で発言・拡散してしまう実態があることが分かった。



授業の導入でアンケート結果を提示することで、本時の題材を子どもたちが自分事として捉えることができるように工夫することができました。



学校として、事前アンケートを継続的に実施することで、経年的な変化や特定の学年の推移を追跡することもできますね。
題材に合わせた各教科等+特別活動の組み合わせ




事前の指導において、国語科(小学校)・理科(中学校)と連携することで、
〇 自分の考えを形成するのに必要な予備知識を身に付けることができ、学級活動の目標を達成する上での基盤が形成され、行動の選択肢の議論をスムーズかつ多角的なものとする効果があった。
〇 学級活動(本時)における体験や議論の場の時間設定に余裕が生まれた。



国語のディベートで、AIや生成AIについて調べる中で、ChatGPTなどには誤情報が含まれることがあると知っていたので、今日(学級活動)の学習で生かすことができました。



ディベートでもAIとの暮らしや共存の仕方について勉強してきたけれど、生成AIが間違った情報を伝えるということについては、ニュースでは見たことがあったけど実感はなかったので、学活で自分で体験してみて、AIってこんな感じなんだっていうのが理解できました。
● 教科等連携のデザインは効果的であったものの、教材の選定や真偽の確認などに準備の大変さが伴う。
● 教科書に記載されている内容のみでは関連付けて評価できる項目が少なく、連携のポイントを見出すことが難しかった。さらに、教育課程全体を通しての指導の体系化が難しい。
研究の内容2 意思決定につながる学習展開の工夫について
本研究内容では、情報モラルの指導が「日常モラル+情報技術の仕組みの理解」から成立するという考えに基づき、具体的な問題場面を通して情報技術の仕組みを理解した上で、「他者を尊重し、責任をもって行動する子ども」を育成するための議論の場を設定した。




情報技術の仕組みの理解
〇 子どもたちは、【Google検索のAI Overviewsのような無自覚に接する機会のある生成AIが、インターネット上のデータに基づいていることから、誤情報(ハルシネーション)を生み出したり人間の現状や繊細な感情のやりとりが理解できず、不適切なアドバイスを提示したりしうる】という、生成AIの具体的な特性を体験的に理解できた。
〇 事前の理科の学習(フェイク動画の見極め)との連携を通じ、子どもたちはネット上の情報には信ぴょう性の度合いが存在することを認識し、情報がなぜ不確実になるのか(思い込みや誤解を生みやすいこと)について、論理的に知識を活用しながら理解する基盤が形成された。



理科の学習の時は動画で、今回は文章で内容が違いましたが、どちらも情報をうのみにせず、複数の観点から内容を確かめる大切さを改めて感じました。
(事後アンケート理由記述欄より)
行動の選択肢の議論
〇 AIからの情報が「当てはまらない」可能性があることを理解した上で、「複数の情報源を見比べる」「詳しく調べる」 といった、情報の真偽を確かめるための具体的な行動意識を獲得した。その結果、前向きな活用へ向けた意思決定を記述することができた。
〇 グループ討論を通じて、子どもたちは信頼できる情報源(専門家や公的機関による情報)を特定できるようになった。また、情報の信ぴょう性を確かめずに共有することが誤情報の拡散を招くという認識から、発信者としての責任を強く自覚することができた。



世の中に嘘の情報が多く飛び交っているということを知れる良い機会になりました。学習を通して、人と比べて自分が騙されやすいということに気づいたので、学校で噂されていることや、SNS、テレビなどで発信されていることはどのくらい信用していいのかを考えながら生活をしていきたいと思います。
(事後アンケート理由記述欄より)
● ネット上の情報の信ぴょう性や拡散に対する意識は高まったものの、情報モラルが「日常モラル+情報技術の仕組みの理解」から成立するという考えに対し、学習で得た知識を日常生活にどう生かすかという視点に立ち戻りきれない部分もあった。
アンケート結果から
質問「友達の意見や考えをしっかり聴いている」に対する肯定的な回答は、事前・事後共に100%であった。しかし、その内訳(左グラフ)を見てみると、【よく当てはまる】というもっとも肯定的な回答の割合が38.8ポイント増加している。


また、理由記述欄では、他者を尊重することや、様々な意見をもつ他者と関わりながら学ぶことに対して、肯定的な記述が見られた。
(事後アンケート理由記述欄より)
各教科等との連携をすることで、情報技術の仕組みの理解が図られたことは前述した。その際に、日常モラルと併せて取り上げることで、事後の学習活動や学校行事等の見取り場面において、他者の意見を大切にしたり意見を交わしたりしながら創り上げていく部分へ、今回の学習が生かされていることが分かった。
さらに、
(事後アンケート理由記述欄より)
という記述もあり、学習が生かされていることが分かる。
加えて、質問「自分の行動を振り返って、次に生かしている」では、事後アンケートで3.2ポイント上昇した。理由記述欄を見てみると、
(事後アンケート理由記述欄より)


といった、自身の行動の変化についての記述が多く見受けられた。
その他に、
(事後アンケート理由記述欄より)
といった記述もあり、行動の選択肢の議論を通して意思決定する過程を経る際に、様々な意見や考え方に触れ、自己の考えを再形成することができたのだと考えられる。
追跡アンケートより
また、長期休業明けの1月に実施した追跡アンケートでは、以下のような記述が見られた。
(追跡アンケート理由記述欄より)
このような、意思決定した具体的な行動目標を実行したり、学習を思い出して再認識したりする姿が見られた。また、学習を好意的に見ていることも分かった。
さらに、以下のような記述も見られた。
(追跡アンケート理由記述欄より)
これらの記述は、情報モラルの「日常モラル+情報技術の仕組みの理解」という点を授業に反映できたからではないだろうか。インターネット上だけのモラルではなく、日常生活や対人関係における行動にまで、学びが生かされている。なおかつ、学習したことや意思決定したことが、授業実施後、長期休業期間を経ても継続されたり、学校生活や家庭生活で生かされたりしていることが分かった。



そのほかにも、日常生活やオンライン上の行動の両方について述べている記述や、意識が継続していることが分かる記述が見られました。子どもがそれぞれに、自分の生活や体験に照らし合わせながら、学習を生かしている様子が見て取れました。
成果と課題
成果
〇 教科等横断的な視点による指導基盤の確立と本時の議論の質の向上
事前アンケートにより把握した子どもの実態に基づき、特別活動(学級活動)と各教科等(小学校:国語科、中学校:理科)を連携させる授業デザインは、情報モラルの指導基盤として極めて有効だった。特に、連携した授業において情報技術の仕組みの理解に必要な基礎知識を事前に学習したため、本時の学級活動では「行動の選択肢の議論」に十分な時間を確保することができ、子どもたちが多様な考え方に触れ、自己の行動を深く再形成するための議論の質が向上した。



「ちゃんとした情報なのか、正しい情報なのかについて気を付けるようになった」、「本当に合っているのかもう一度確かめる、正しい情報か調べるようにしている」 といった事後アンケートの記述や普段の様子から、能動的な行動の変容が見て取れました。
実体験や他者との交流、実例を聞くことで、より深く、今後の生活について考えていたと思います。
〇 情報技術の特性理解に基づいた批判的思考力と発信者責任の獲得
具体的な情報技術の特性(生成AIの誤情報生成や感情の欠如など)を体験的に理解し、情報には信ぴょう性の度合いが存在するという認識を深めることができた。これにより、子どもたちは、情報をうのみにしないという批判的な姿勢に留まらず、信頼できる情報源(専門家や公的機関による情報)を求め、さらには「自分が正しいと思って広めた情報でも間違えている可能性がある」といった、発信者としての責任を自覚した前向きな意思決定をすることができた。



社会科で情報の学習をした際、「ネットは悪い所だらけだね」と問うと「いや、そんなことはない」とほぼ全員が間髪入れず答えます。
また、総合的な学習の時間で調べ学習をしている際に、情報の出典をGoogleAIとしていた子どもへ、隣の子どもが「情報元がちゃんと右側にあるから、本当に正しいか確認した方がいいよ」と、生成AIが提示した情報をただ忌避したりうのみにしたりするような極端な考え方ではなく、批判的に情報を取り扱おうとする姿勢が見られるようになりました。
〇 学びの継続性、責任ある行動の主体的な選択
インターネット上だけのモラルではなく、日常生活や対人関係における情報行動にまで学びが生かされていることが、追跡調査の結果から裏付けられた。情報技術の特性を正しく理解したことで、子どもたちは「学校での噂話」に対しても慎重に真偽を探ったり、AIの回答を「自宅の本で確かめる」といった能動的な検証行動を習慣化させている。このように、「心(日常モラル)」と「知(情報技術の仕組みの理解)」を一体的に扱う学習展開は、場面を問わず子どもたちが責任ある行動(エージェンシー)を主体的に選択し、よりよい社会生活を営もうとする態度の育成に極めて有効であった。



検索して一番上に表示される情報だけ見ていた子どもたちが、情報を多面的、多角的に捉えるようになってきた姿が見て取れました。
また、次の学習への波及効果、長期休業中の家庭生活の中でも学習が生かされるなど、意識の継続性もあったということですね。
課題
● 日常モラルへの接続と深化の必要性
デジタル上の情報に対する判断力は向上したものの、日常の噂話や集団心理的な情報拡散といった非デジタルな側面をもつモラルに対し、授業で学んだ判断基準をどのように生かし、実践に移すかという点において、さらなる指導の深化の必要性が残った。
● 教科等横断的な授業デザインの継続性に関わる体系化
広報誌『数字で見る十勝の教育』のR6第3回アンケート調査における質問、Q1:情報活用能力(情報モラルを含む。)をどのようにして教育課程に位置付けていますか?では、右図のように、年間指導計画や全体計画への位置付け、体系表の作成の割合は、5割を切っているのが現状ということが分かっている。


連携する教科の内容や、子どもの実態や社会情勢から取り上げたい教材を確認し、日常生活との関連を図りながら授業をデザインする際に、教育課程全体を見通し、情報モラルに関わる指導を体系的かつ組織的に位置付ける必要がある。
この課題に対して、今年度の授業実践では、小学校第5学年、中学校第2学年の年間指導計画を見通した中で関連性を見出し実施することができたが、より長期的に体系化していく必要性が感じられた。



国語科の単元内容(ディベートのテーマが「AIとのくらし」であり、メリット・デメリットを調べる活動が含まれる)と関連付けて計画したことで、学活1時間では扱い切るのが難しい情報量でも、子どもの充分な思考・活動時間を保証した上で学習を進めることができました。
小学校高学年では、関連付けられそうな単元も見受けられますが、低・中学年ではどうでしょうか。



理科という教科の特性上、どう取り扱うことができるか正直悩みましたが、「理科の知識を使って考える」という取り上げ方をすることで、単元のまとめ(時数としては+1)に設定し、既習事項を活用した事前指導をすることができました。
教科によって、取り組みやすさが違うのではないかと思います。



各教科等との連携については、学年や教科等によって、実施可能かどうか差があるのは当然かと思います。そのため、1年ごと、教科ごとで見るのではなく、年間の、または学校の教育課程全体で、さらに9年間を見通して、という視点が大事になるのではないでしょうか。


2か年の研究を通して
1年次の研究では、コミュニケーション(LINEの返信、グループLINE、投稿へのリアクション)について、2年次では、ICTの最新の動向(生成AIやフェイク動画など、情報の信ぴょう性)に焦点を当て、教科等横断的な授業デザインの工夫や、意思決定につながる学習展開の工夫について研究をしてきた。日々進化する情報技術をどう捉え、どう指導していくかということは、不確定なものも多く難しい取組であった。


しかし、情報モラルの育成に当たっては、「日常モラル+情報技術の仕組みの理解」を基に、いかに日常の活動や関わりの中で能力を身に付けていくかが重要であるという点において、実践検証を通して、主題に迫ることができたのではないかと考えている。
特に、以下の点について大きな成果があった。
・日常モラルを発揮して、オンライン上の課題について考えるという視点をもつことで、教育課程の中で、どのように指導をしていくかを検討することができた。
・実態把握を基に、子どもが自分事として考えることができるようなアンケートの活用や、体験的な活動、議論を通して、今後の行動を意思決定していく授業展開をすることで、その後の学習活動においても意識が継続したり、学習したことを生かして生活する子どもたちの姿が見られた。
ただし、以下の点については、依然として課題が残っている。
・情報活用能力は、ある特定の教科等で育成するのではなく、全ての教育活動を見通し、系統性のある学習活動を仕組むことでより効果的に育成が図られるだろう。各学年の1年間の中でどのように取り組むかという視点と、9年間を見通した視点の両面から捉え、体系的に育成していく必要があるだろう。
また、デジタルネイティブの子どもたちが、どう情報と付き合っていくか、どのような社会を創っていくかという広い視野を持った指導や計画が必要ではないだろうか。
そこで、この2年間の研究から、小学校第5学年~中学校第2学年までの4学年分の授業実践と、その検討過程で可能性を探った単元について整理し、提案する。9年間を見通し、3観点で考えた上での、研究協力校における実践事例(カラーで表示)、または実践可能であろう事例(黒字で表示、授業づくりの際に関連性が話題に上がり検討したもの)をまとめた表である。


これは、あくまで実践の履歴と提案でしかないが、少しでも参考になれば幸いである。
終わりに
本研究は、次期学習指導要領の改訂に向けた検討が進められている中での取組であった。中央教育審議会の議論や次期学習指導要領の検討部会、情報・技術ワーキンググループ等では、情報活用能力の育成について、単なるスキルの習得にとどまらず、情報社会における主体的な判断力や責任ある行動力の育成が重要視されている。また、生成AIをはじめとする急速に進化する情報技術への対応や、デジタル・シティズンシップの観点からの指導の在り方についても議論が重ねられている。加えて、情報の時間だけではなく、教科等横断的に学ぶ必要があることについても言及されている。


このような動向を踏まえると、本研究で取り組んできた「日常モラル+情報技術の仕組みの理解」を基盤とした情報モラル教育は、まさに時代の要請に応える実践研究であったと考える。子どもたちが情報を批判的に捉え、他者を尊重しながら責任をもって行動を選択・決定していく力は、OECDが提唱する「エージェンシー(変化を起こすために自ら考え、主体的に行動し、責任をもって社会に参画する力)」の育成にもつながるものではないだろうか。
日々進化する情報技術は、私たちの生活をより豊かにする可能性を秘めている一方で、その活用には適切な判断力と責任が求められる。本研究を通じて見えてきたのは、子どもたちが情報技術を単に「使える」だけでなく、「よりよい社会の形成に向けて活用する」ための土台となる力を、日常の学習や生活の中で継続的に育んでいくことの重要性である。


デジタルネイティブ世代の子どもたちが、情報技術と適切に向き合い、自他のウェルビーイングを実現しながら、よりよい社会を創造していく担い手となることを願い、本2か年研究の結びとしたい。今後も社会の変化や技術の進歩を注視しつつ、子どもたちの豊かな未来につながる情報モラル教育の在り方を探究し続けていく必要があるだろう。
参考・引用文献
○ 小学校学習指導要領(平成29年3月)
○ 小学校学習指導要領解説 総則編(平成29年6月)
○ 小学校学習指導要領解説 特別活動編(平成29年7月)
○ 中学校学習指導要領(平成29年3月)
○ 中学校学習指導要領解説 総則編(平成29年6月)
○ 中学校学習指導要領解説 特別活動編(平成29年7月)
○ 「教育の情報化に関する手引」(令和元年12月)
○ 「教育の情報化に関する手引―追補版ー」(令和2年6月)
○ StuDX Style (https://www.mext.go.jp/studxstyle/)
○ STEAM Library (https://www.steam-library.go.jp/)
○ 情報化社会の新たな問題を考えるための教材~安全なインターネットの使い方を考える~(令和2年度追加版)
○ 情報モラル教育ポータルサイト(https://www.mext.go.jp/zyoukatsu/moral/index.html)
○ 情報モラル学習サイトe-leaning 設問一覧表
○ 中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(答申)(平成23年1月31日)
(以上、文部科学省)
○ Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ(2022年6月2日)
内閣府総合科学技術・イノベーション会議
○ 家庭で学ぶデジタルシティズンシップ~実践ガイドブック~(https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/parentteacher/digital_citizenship/pdf/practice.pdf) 総務省
○ 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(小学校編)
○ 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(中学校編)
○ 「みんなで,よりよい学級・学校生活をつくる特別活動(小学校編)」
〇 「学級・学校文化を創る特別活動(中学校編)」
○ 情報モラル教育実施ガイダンス(平成23年3月)
(以上、国立教育政策研究所)
○ The OECD Learning Compass 2030 OECD
○ ネット社会の歩き方(http://www2.japet.or.jp/net-walk/)
〇 ネット社会の歩き方がおススメする情報モラルポータルサイト(「ネット社会の歩き方」がオススメする 情報モラルポータルサイト)
○ 情報活用能力ベーシックを活用した実践事例集
(以上、日本教育情報化振興会)
○ デジタル・シティズンシップ+ やってみよう!創ろう!善きデジタル市民への学び 坂本 旬 他
○ デジタル・シティズンシップ コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び 坂本 旬 他
(以上、大月出版)
○ はじめよう!デジタル・シティズンシップの授業 JDiCE 日本デジタル・シティズンシップ教育研究会他編
○ はじめよう!デジタル・シティズンシップの授業2 JDiCE 日本デジタル・シティズンシップ教育研究会他編
○ スマホ世代の子どものための主体的・対話的で深い学びにむかう情報モラルの授業 今度 珠美・稲垣 俊介
○ スマホ世代の子どものための情報活用能力を育む 情報モラルの授業2.0 今度 珠美・稲垣 俊介
○ はじめてのAIとのつきあいかた ワークブック ~デジタルシティズンシップで学ぶAI倫理の授業~ 今度 珠美
(以上、日本標準)
○ 子どもの未来をつくる人のためのデジタル・シティズンシップ・ガイドブックforスクール マイク・リブル&マーティ・パーク 教育開発研究所
○ 情報モラル教育教材GIGAワークブック(https://kids.yahoo.co.jp/edu/moral) LINEみらい財団
○ 情報活用能力ベーシック 活用ガイドブック 中川 一史・小林 祐紀・佐藤 幸江・岩﨑 有朋 東洋館出版
○ 情報活用型プロジェクト学習ガイドブック2.0 稲垣 忠 明治図書
○ 十勝教育研究所 広報誌 「数字で見る十勝の教育」令和6年度第3回アンケート結果
_page-0001-1024x576.jpg)
_page-0001.jpg)