巻頭言(351号)

「どんな未来を創るのか」

       十勝教育研究所 副所長 石丸 揚一朗

 

 ふと日々の暮らしに目を向けると、私たちの生活の根幹にあった「当たり前」が、少しずつ、しかし確実に変化し始めていることに気付かされます。生成AIに代表される人工知能技術は、私たちの知的活動の在り方そのものを問い直しています。また、地球規模の気候変動は、これまでの暮らし方が持続可能ではないことを示唆しています。さらに、グローバル化の加速、情報の氾濫、価値観の多様化、社会の分断、そして予測困難な出来事の連続。まさに私たちは、変化の最中にあります。
 このような時代にあって、子どもたちがこれから迎える未来は、誰かがあらかじめ用意したものではありません。むしろ「どんな未来が来るのか」ではなく「どんな未来を創るのか」という能動的な問いこそが、教育の出発点として強く求められているのではないでしょうか。

 未来を創る力とは、単なる知識や情報を得る力だけではなく、変化に気付く感性、他者とつながり共に考える姿勢、困難を乗り越える粘り強さ、自らの思いや願いを言葉にして行動に移す力を含んでいます。
 こうした力は、OECDが提唱する「エージェンシー(主体性)」とも深く関わっています。いわゆる「非認知能力」とも呼ばれ、世界的にも教育の根幹をなすものとして再評価されています。
 これらは、教科書の中だけでなく、日々の学校生活の中で「感じ」「気付き」「考え」「動く」ことの積み重ねによって育まれていくのではないでしょうか。つまり、教室や学校そのものが、子どもたちの主体性や創造性を育てる「場」だと感じています。
 また、子どもたちがその力を十分に発揮するためには、「安心して挑戦できること」「失敗が受け入れられること」「誰かとつながっているという実感があること」が欠かせないとも思っています。そのような「場の力」こそが、教育現場におけるウェルビーイングの本質ではないかと私は考えます。

 今号では、「教育現場のウェルビーイング~エージェンシーの向上を目指して~」を特集テーマに、子どもたちが自ら学び、他者とつながり、未来を創る力を育んでいくための実践を取り上げています。その背景には、「学びやすさ」「働きやすさ」という視点から、学校という場の在り方を問い直そうという意図があります。
 その文脈の中で、かつて清水町教育委員会で教育長を務められた横山一男氏の言葉「表情もまた学力である」が、改めて私の胸に響きます。表情は、言葉以上に、その人の安心感や信頼感、学ぶ喜びを雄弁に伝えるものです。子どもたちの豊かな表情があふれる教室。それこそが、ウェルビーイングが育まれ、エージェンシーが芽生える学びの場であると言えるのではないでしょうか。

 教育は未来への投資であるとよく言われますが、それは単なる知識や技能の蓄積にとどまらず、人とつながりながら自らの人生と社会を創り出す力を育てる営みでありたいと願っています。十勝教育研究所は、これからも地域の学校や先生方とともに、子どもたち一人一人の心の豊かさと未来を創る力の育成に関する研究に努めてまいります。

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