さらべつ昆虫研究所 所長 斎藤 彦馬 さん
幼少期から自然や虫が好きだった斎藤彦馬さん。「一般の人向けに自然のことを伝えたい」という思いから、ネイチャーガイドとしての道を歩み出す。現在では、「さらべつ昆虫研究所」の所長として、「甲虫の世界展」「夏の昆虫展」などテーマを設定した展示会の開催、個人向け昆虫ガイド、十勝管内の幼稚園や小学校での自然体験授業などを行っている。また、北海道知事認定自然ガイドとして、団体向け環境学習、自然保護活動、植物調査などにも取り組んでいる。
今回は、「さらべつ昆虫研究所」所長の斎藤さんに、仕事をする上で大切にされていることや、教育現場に期待することなどについてお話を伺った。
後悔しないようにやりたいことを全力で
――仕事をする上でどのようなことを大切にされていますか。
続けていくことの大切さ、好きなことに向き合っていく生き方を子どもたちに見せていきたいと思っています。皆さんの中には、様々な理由で自分の夢を諦めてしまった方もいると思います。ですが、子どもたちの前では夢を諦める姿を見せないでほしいです。その姿を見せてしまうと、子どもたちは「どうせ自分はできない」というマイナス思考になり、真っすぐに夢を追うことができなくなってしまうのではないでしょうか。ですから、私はどんなに規模が小さくても後悔しないようにやりたいことを全力でやろうと思っています。ただし、やりたいことを行うためには、いろいろな人の支援が必要です。私が一番大事にしているのは「人」です。例えば、自然観察をするためにはフィールドを提供してくれる人がいたり、観察会では子どもたちを一緒に見守る保護者の協力があったり、同行してくれるガイドさんがいたりします。自分一人で成り立っている仕事ではないということを、常に意識しています。
実物に触れて本当の知識を身に付けてほしい
――展示会や自然体験授業などを通して、子どもたちと関わる中で感じていることはありますか。
現代社会では、インターネットやテレビなどのメディアを通して様々な情報を手軽に得ることができます。先日、展示会に来た子どもがクモを見て「あつ森(あつまれ どうぶつの森)で見た」と言っていました。ゲームでは、クモにかまれるとスタートに戻るという設定があり、その子どもは「クモ=襲ってくる」というイメージをもっていました。
また、ゲームや映画でタランチュラに噛まれた人が死ぬシーンを見たことがある方もいるのではないでしょうか。しかし、実際にタランチュラにかまれて死んだ人は一人もいません。これは、メディアやゲーム、You Tubeなどの動画サイトが主流になってきているが故に、情報を過大に伝えたり誤った情報が流れていたりすることが影響していると感じています。偏った知識を受動的に受け取っているからなのではないでしょうか。ですから、子どもたちには野外に出て、自分の目で実物を見て、手で触れて、本当の知識を身に付けてほしいです。デジタルも便利ですが、アナログに立ち返り、自分の感覚を大切にすることも必要だと思います。
――教育現場に対してどのようなことを感じていますか。
私の母は、勉強に対して厳しい人でした。そのため、幼少期は母に怒られないために勉強をしていて、自分のために勉強するという感覚がありませんでした。ですが、大人になった今は、学ぶことに楽しさを感じています。様々な分野の方々と接する中で、新しい発見があったり、もっと知りたいと思ったりします。それが、学ぶ意欲につながっています。学校現場では、ある程度統一した指導法が必要だとは思いますが、「これはこうしなければいけない」と考えが固定化され、先生方が縛られてしまっているのではないかと感じています。先生方には、それぞれのスタイルをどんどん発揮してほしいです。そして、子どもたち一人一人に合った学習法や教え方で、子どもたちに学ぶことの楽しさを伝えてほしいと思います。「勉強=つらい」ではなく「勉強=新しい知識が身に付いて楽しい」という感覚を、子どもたちが実感することができるようになればと思います。また、先生方同士で指導法を共有することで、お互いのスキルアップにもつながるのではないでしょうか。さらに、様々な職種の方々とつながりをもち、子どもたちに学校ではできない体験をさせてほしいと思います。今の学校現場では、体験的な活動をする時間も労力も足りないと思うので、地域の大人の力をどんどん借りていけばよいのではないでしょうか。
――今後の夢、やりたいことは何ですか。
更別村を拠点として、十勝管内の様々な人と協力して、地域の子どもたちのために自然についての教育を広げていきたいです。自分一人でできることは限られています。一人で何でもやってみようではなく、周りの人とのつながりを大切にし、協力を得ながら、十勝の自然に興味をもつ子どもを増やしていきたいです。子どもたちの可能性を広げる一翼を担うことができればと思います。
子どもが伝えたいことを肌で感じ取って
――最後に、先生方へのメッセージをお願いします。
虫は言葉を発しませんが、動作に注目することで「いつもと違うな」という変化を感じ取ることができます。これは、子どもたちにも同じことがいえるのではないでしょうか。子どもたちは、自分の思いを言葉で伝える力がまだまだ未熟です。その分、動きに感情が表れると感じています。先生方には、子どもたちの普段の何気ない動きから、いつもとは違う変化や子どもが「何を伝えたいのか」などを肌で感じ取ってほしいです。また、子どもとのたわいない時間を大切にしてください。子どもたちが「何に夢中か」、「どういうことに興味をもっているかな」ど、先生方にはもっともっと子どもを身近に感じ、子どもの理解を深め、よさを見付ける感性を磨いてほしいと思います。
サッポロフキバッタ
札幌市で最初に見付かった北海道固有種のバッタ。
クロツヤヒラタゴミムシ
野外では地表で見掛けるメジャーなゴミムシの仲間。小さいながらも顎が鋭い肉食昆虫。
ミヤマクワガタ
北海道を代表するクワガタ。涼しい気候を好む。
クジャクチョウ
北海道を代表するチョウ。きれいな色彩から、学名は日本の芸者に由来して「io geisha」と名付けられている。冬は成虫で冬眠する。
オオルリボシヤンマ
北海道を代表する大型のヤンマ。池の周りを縄張りにして、ほかのトンボを追い出してしまうこともある。
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