わたしの授業実践(353号)

スクールワイドPBSと保健体育科の授業づくり

中札内村立中札内中学校 教諭 田中 壮洋

はじめに

SWPBSとは何か

 スクールワイドPBS(SWPBS)とは、応用行動分析学を基盤として、学校全体で望ましい行動を育てる仕組みです。望ましくない行動を叱責によって減らすのではなく、「どのような行動を増やしたいか」を明確にし、その行動を具体的に教え、練習し、肯定的に認めることで、子ども一人一人の成長を支える活動です。
 重要なのは、行動を「本人の問題」として捉えないことです。応用行動分析学のABCモデルが示すように、行動はその前後の環境であるきっかけ(A)と結果(C)と深く結びついています。SWPBSは「困っている子を直す」のではなく、「望ましい行動が生まれやすい環境をつくる」という発想に立ちます。本校ではスクールカウンセラーからの紹介を機に少しずつ研修と学級単位での試行を重ね、令和7年度から全校規模での実施に踏み切ったところです。

SWPBSのビジョン

 SWPBSのビジョンは、学校に関わるすべての人のウェルビーイングを高め、肯定的で支持的な学校文化を創造することです。そのために、3つの柱で取り組みます。子どもには、望ましい行動を自ら選択できる力を育みます。教職員には、科学的根拠に基づく支援の専門性を高める機会を保障します。そして学校組織としては、全教職員の共通理解の下、一貫した支援システムを構築します。これらは切り離せません。個々の教師がどれだけ優れた実践をしても、システムがなければ継続できず、データがなければ改善できません。SWPBSは、実践・システム・データの三位一体で機能します。こうした取組を通じて目指すのは、学力の向上、不登校やいじめの減少、そして教職員が安心してやりがいをもって働くことのできる環境です。SWPBSは生徒指導のハウツーではなく、専門職として子どもと環境を観察し、環境に働きかけることで、誰もが安心して成長できる学校を共につくる営みです。

【校内に掲示しているPBSの掲示】

【取組の様子を可視化し、全校で共有】

学級での実践から

 学級でPBSを実践するに当たり、まずは学級の実態を丁寧に見取りながら、学級執行係の生徒と相談を重ねる中で「どのような学級になってほしいか」といった目指す姿を共有し、具体的な行動目標を設定しました。
 教師側から一方的に目標を与えるのではなく、子ども自身が学級の課題や理想像について考え、納得感をもって取り組んだことにより、活動への主体性が高まりました。実践では、行動を可視化し、数値化しながら毎日振り返りを行いました。小さな行動の積み重ねを学級全体で確認していくことで、子どもたちの望ましい行動が少しずつ増えていく様子が見られました。特に、「できたこと」が具体的に見えることで、子ども同士の承認や肯定的な声掛けも増え、学級全体の雰囲気にも変化が生まれていきました。

【行動の可視化に関わる振り返りの視点】

 また、一定期間の取組を終えて目標を変更してからも、一度身に付いた行動が習慣として継続する姿が見られました。PBSによる支援は、一時的な行動改善だけでなく、子どもの中に望ましい行動を定着させることにもつながることを実感しました。
 一方で、全ての取組がうまくいったわけではありません。行動を後押しするための働きかけには限界があり、また、設定した目標のハードルが高すぎることで、行動として定着しないものもありました。PBSは、子どもの実態に応じて柔軟に調整することが重要であるため、効果が見られない活動については、無理に継続せず早い段階で見直しや撤収を行いました。
 実践を通して、子どもの実態を正確に把握しながら、継続可能で達成感を得やすい活動を設定することの大切さを学ぶことができ、この経験を教科指導にもつなげられるのではないかと考え、実践してみることにしました。

保健体育の授業での実践から

 保健体育科では、中学校3年生の球技「バドミントン」の授業にPBSを取り入れた実践を行いました。この学年は、学級満足度調査「ほっと」や「i-check」の結果からも、人との関わりに苦手さが見られる集団であり、互いに認め合ったり、自信をもって関わったりする経験が必要であると感じていました。そこで、保健体育科の評価の観点と関連付けながらPBSを設定し、技能だけではなく、仲間との関わり方や協働的な学びにも焦点を当てた授業づくりを行いました。

【保健体育科の評価と関連づいたPBS】

【共通のポーズで表現・共有】

 授業では、まず子ども一人一人が自分自身のバドミントンにおける課題を整理し、それをチーム内で共有しました。その後、プレーの中で課題が改善できているかを仲間同士で観察し、達成できた瞬間に共通のポーズで出来栄えを伝え合う活動を取り入れました。この学年は、言葉や文字で思いを伝えることに苦手意識をもつ子どもも多かったため、「その瞬間に体で表現する」という方法を用いたことは非常に効果的でした。仲間が自分の成長や成功を即座に反応してくれることで、子どもは安心感や達成感を得ながら活動に取り組むことができていました。また、自分では気付きにくい成功を周囲が認めてくれることで、自信をもってプレーする姿も多く見られるようになりました。さらに、PBSを取り入れた授業を継続することで、集団としての課題であった人間関係にも少しずつ改善が見られました。

 保健体育科において、評価の観点とPBSを関連付けながら「どのような姿を目指すのか」を明確に示したことは、教科指導の面でも効果があり、子どもの学習意欲や主体的に取り組む姿勢にもよい影響があったと感じています。今回の実践を通して、PBSは単なる生徒指導の手法ではなく、教科指導や学級経営と結び付けながら活用することで、子どもの安心感や自己肯定感を高め、よりよい集団づくりにつながる有効な支援であることを実感しました。

終わりに

 PBSの実践を通して強く感じたのは、子どもの行動は「指導」だけで変わるのではなく、環境や関わり方によっても大きく変化するということです。だからこそ、教師には子どもを変える視点ではなく、子どもが安心して挑戦し、認められ、成長できる環境をデザインしていく視点が求められていると感じました。特に保健体育科は、仲間との関わりや成功体験を通して自己肯定感や集団形成を育むことのできる教科であり、PBSとの親和性は高いと考えます。
 今後も、評価や授業づくり、学級経営を切り離さず、「どのような子どもの姿を育てたいのか」を軸に教科指導を進めていきたいと思います。そのためにも、日々研修と修養に励み、実践と振り返りを積み重ねながら、子ども一人一人が安心して学び、自分らしく力を発揮できる学校づくりに貢献していきたいと思いました。
 今回、このように自分自身の活動を振り返る機会を頂き、ありがとうございました。

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