
はじめに
中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」(令和4年12月19日)では、教師が「教職生涯を通じて探究心を持ちつつ、自律的かつ継続的に」学び続ける教師の姿を示し、その姿は「子供たちの学びの相似形である」と示しました。また、「十勝はひとつ -『こども』をまんなかに-」を掲げる十勝管内でも、教職員を含む誰もが自分らしく輝く「ウェルビーイングの向上」を推進しています。こうした学校を実現する上でも、教職員が互いに学び、支え合える環境をどのようにつくるかは大切な視点となるでしょう。
学校現場には、日々の授業づくり、生徒指導、保護者対応、校務分掌など、経験を重ねながら身に付けていく営みが数多くあります。では、若手教員は、学校の中でどのように学び、どのような関わりに支えられているのでしょうか。本特集では、若手教員の声を出発点に、若手教員が学校で育つための環境づくりについて考えます。
なお、本特集では、教職経験が5年以下の教員を若手教員と表記します。
若手教員座談会 ~若手教員は学校の中で何を感じ、どう学んでいるのか~
十勝管内の小・中学校に勤務する若手教員4名に集まっていただき、日々の実践で感じる喜びや難しさ、学びのきっかけ、周囲の教職員との関わりについて語り合いました。それぞれの率直な言葉から、若手教員の学びや成長を支えるものについて考えます。

教員になる前のイメージと実際
想像以上に多様な教員の仕事内容
――教員になる前に思い描いていた姿と、実際に働いてみて感じたことに違いはありましたか?
大塚先生忙しい仕事だろうとは思っていました。でも、自分の場合は「忙しい」よりも「楽しい」の方が勝っています。初任1年目の頃は、授業の進め方が分からず、仕事の見通しも立たず、抱えきれなくなりそうな時期がありました。そのとき、周りの先生方が気付いてくださり、負担を減らしてくれたんです。少しずつ慣れて、今は担任としてできることが増えてきました。



私は、一人の子どもとじっくり話し、その子どもに必要なことを伝えられる教員になりたいと思っていました。でも実際には、授業や学級のことなど、同時に考えなければならないことが多く、一人の子どもに十分な時間を取るのは簡単ではありません。そこは想像と違いました。ただ、今は限られた時間の中で、どう楽しく関われるかを考えています。



授業をするだけではない、ということですよね。学級経営や生徒指導、けがへの対応、会計、ICT、部活動など、いろいろな役割があります。部活動を終えて職員室に戻っても事務作業があり、授業準備になかなかたどり着けない日もあります。「これも教員の仕事なんだ」と、4年間で何度も感じました。



小学校では多くの教科を受け持つので、毎日の授業がほとんど「人生で初めて」です。中学校や高校のように、同じ内容の授業を複数の学級で繰り返すこともありません。昨年とは学年も変わるため、経験がそのまま使えるわけでもなく、常に1年目のような感覚があります。学びたい気持ちはあっても、まず明日の授業をつくることで精いっぱいになることもあります。



坂下先生は、授業準備にたどり着けないほど忙しいと言っていましたよね。そこに新しい仕事を頼まれたら、断るという選択肢はないんですか。



断ることもできると思います。ただ、まだ自分は、まずやってみる時期かなと思っています。子どもたちにも「やってみないと分からない」と話しているので、自分も一度やってみる。やってみて必要がないと分かれば、次から見直せばいいと思っています。



すごいな。自分なら断ることもあります。最近は、今の自分にできる仕事量を考えるようになりました。まず1つの仕事に慣れ、余裕ができたら次へ進む。そうやって少しずつできることを増やす方が、自分には合っているように感じています。



自分は坂下先生に近いかもしれません。若手のうちは先輩方に助けてもらうことが多いので、自分にできることで返したいという気持ちがあります。できなければ、また手伝ってもらえばいい。別の仕事で得たことが、授業や次の業務に生きることもあると思います。



いろいろ引き受けるのはすごいと思います。でも、パンクしないでくださいね。



そうですね。自分の力になると思って取り組んでいるところもあります。部活動でも分掌でも、そこで学んだことを別の場面に生かせるかもしれないと思っています。



私も広瀬先生に近いと思います。頼まれた仕事は経験になりますし、普段から互いに助け合うことが、自分が困ったときに相談できる関係にもつながるのかな、と思います。そのためだけに引き受けるわけではありませんが、自分が相手の立場だったら……と考えることはあります。
自分自身の学び
聞く・見る・試す。そして、自分の形に変える
――授業づくりや学級経営などのあらゆる業務について、普段どのように学んでいますか?



最近、他校の社会科の授業を見に行きました。外から授業を見ると、いろいろな気付きがあります。そこで得た方法を、早速自分の授業でも試しました。自分の授業をほかの先生に見てもらい、意見をもらうことも大切だと思います。坂下先生も、授業を公開した経験があるんですよね。



昨年、十勝管内教育研究サークル合同研究会で授業を公開しました。50分間の公開授業の後、2時間半にわたって事後研修を行ったんです。自分では気付かなかったことをたくさん聞くことができ、授業の組み立て方が整理されました。公開してよかったと、今も感じています。
普段は英語の研究サークルに参加したり、同じ学校の先生の授業を空き時間に見に行ったりしています。ほかの教科を見ることもあります。今続けている英語の小テストは、数学の授業で見た方法を取り入れたものです。まず真似をしてみて、うまくいかなかったら、それも学びだと思っています。



私は少し違って、授業を見ること以上に、研修で指導方法を聞いたり、自分で体験したりして学ぶ方が合っているように感じています。例えば、音楽の研修に参加した際、参加者の先生が子どもの立場になって実際に活動しました。やり方を知った上で、「担任する学級の子どもたちにどう使えるか」と考える方が、自分には入りやすいんです。
先生によって授業のスタイルは違います。その先生だからできることを、そのまま自分が真似してもうまくいかないことがあります。だから、指導方法を参考にしながら、自分のスタイルや学級の子どもたちに合わせて変えるようにしています。そういった経験を重ねてから、授業を見ることで気付けることも、また増えるのかもしれません。



小学校は空き時間がほとんどないので、ほかの学級の授業を見に行くことは難しいです。その代わり、同じ学年の経験豊富な先生に、「この単元は、どのように授業をつくりますか」と具体的に聞いています。



それはよく分かります。今の話を聞いて、自分も隣の学級の先生や特別支援担当の先生に、「ここはどうしますか」と、よく聞いていることに気付きました。



以前、地域学習の副読本を使う授業で、何を学習課題にすればよいか分からないことがありました。隣の学級の先生に相談すると、子どもたちが地域の農業について知っていることを出し合い、そこから疑問や課題をつくり、次の時間に調べていく流れを教えてくれました。聞かなければ思い付かなかった展開でした。その方法を聞きながら、自分の学級ならどうするかを考えることができました。



今は、AIを授業準備にどう生かせるかを試しています。小テストやまとめのプリントの案をつくってもらうなど、準備を効率よくしながら、授業の質をどう高めるかに関心があります。



自分も、学級通信の文章を整えたり、授業の展開を相談したりしています。AIの案に対して「本当はこうしたい」と返していくと、自分の考えが整理されることがあります。相談相手のような感覚ですね。ただ、出てきたものをそのまま使うのではなく、最後に決めるのは自分だと思っています。



私も、学級通信の添削などに使っています。ただ、今一番知りたいのは、「学ぶ時間をどうつくるか」です。学びたいことはたくさんありますが、日々の授業や子どもへの対応が続く中で、その時間を確保する難しさを感じています。
相談できる関係と安心できる環境
相談は、何気ない会話から始まる
――「相談しやすい職員室」と「相談しにくい職員室」には、どのような違いがあると思いますか?



今の職場は相談しやすいと感じています。仕事と関係のない雑談ができるんです。普段から何気ない話をしていると、「こんなことがあったんですよ」と、雑談の続きのように相談できます。分からないことも、今の若手という立場から素直に聞くようにしています。



今の話に通じるところがあります。同じ学年で直接仕事に関係のない会話をしていても、自然に子どものことも共有できています。今の職場は、普段からいろいろな先生が話していて、笑いもあります。そういう雰囲気が、聞きやすさにつながっているのかもしれません。



小学校では空き時間がなく、放課後も教室で仕事をする先生が多いので、職員室に人が集まらないことがあります。相談したい先生を探して、まず教室へ行くこともあります。相談しようと思っても、物理的に話せる時間や場所がないことがあります。



小学校の先生は、教室に教科書などを置いている関係で、放課後も教室で仕事をしているイメージがありますね。



自分は、まず話を受け止めてくれる人には相談しやすいです。すぐに「それは違う」「こうした方がいい」と決められるよりも、こちらの考えを聞いた上で、別の方法を提案してもらえると話しやすい。相手との距離感や、聞いてもらえるという安心感は大きいと思います。



自分が相談するときは、先に「自分はこう考えているのですが、どう思いますか」と伝えるようにしています。なぜそう考えたのかが分かる方が、相手も答えやすいと思うからです。



それは自分も同じです。坂下先生が言ったように、自分の考えを伝えてから聞く方が、相手の思いや考えも分かりやすいと思います。
若手教員が学校で学び、育つために必要な環境
心の余裕と、失敗を支え合うために必要なこと
――あなたが学校で学び、育つためにはどんな環境があるとよいと思いますか?



新しいことを学び、それを実践につなげるためには、自分自身の心の余裕も必要だと思います。目の前のことに精いっぱいになるときもありますが、少し立ち止まって振り返りながら、学んだことを自分の実践に生かしていきたいです。



本当にそうだと思います。自分は「無理をしない」と決めています。それと、必要なときに周りへ甘えられること。初任1年目の頃、授業の負担を自分からうまく言えなかったときに、周りの先生が気付いて声を掛けてくれました。本人が助けを求めることも大事ですが、周りが様子を見て声を掛けられる環境も必要だと思います。



自分は、「学校全体で子どもを見る」という雰囲気があることだと思います。若手が考えてやってみて、もしうまくいかなかったら、学年や学校全体で支える。そういう安心感があれば、自分なりの学級経営や授業に挑戦しやすくなります。今の学年では一緒に考えてもらえるので、伸び伸び取り組めています。



坂下先生の話を聞いて、心の余裕って、単に時間があることだけではないのかなと思いました。それこそ、普段から関係のない雑談ができていると、うまくいかなかったことも「ちょっと聞いてください」と話しやすいです。失敗したときに一人で抱え込まず、周りと一緒に振り返ることができれば、またやってみようと思える。そういう関係があることも、心の余裕につながるんじゃないですかね。
これから教員を目指す方や悩んでいる若手教員に向けて一言


数字から見る、若手教員を支える学校の今 ~学校アンケートからの考察~
若手教員による座談会では、4人の先生方の実感や思いが語られました。ここでは、十勝教育研究所が令和8年5月~6月に実施した学校アンケート1をもとに、回答校における若手教員の状況や、成長を支える関わりについて見ていきます。
- 本アンケート調査は回答のあった62校の状況を整理したものであり、十勝管内全ての学校の状況を示すものではありません。
なお、回答に当たっては、校長先生もしくは教頭先生にご回答いただきました。 ↩︎
回答校62校における若手教員の在職状況


自校だけでは、若手教員同士の学びを成立させるのは難しい
回答校のうち、74%の学校には若手教員が在職していたことから、多くの学校に若手教員が在職していることが分かります。
また、回答校のうち、若手教員が0人の学校は16校、1人だけの学校は12校ありました。すなわち、回答校の半数近く(45%)では、校内に若手教員がいない、または1人のみという結果でした。これらのことから、若手教員同士の学び合いを、自校の中だけで成立させることが難しい学校も多くあることが伺えます。
学校が課題と捉える場面は、授業だけにとどまらない


管理職が考える「若手教員の成長における課題」は、状況に応じた判断力だろう
「児童生徒理解・生徒指導」と「授業づくり・教材研究」は、ともに74%(46校)でした。続いて「保護者対応」が63%(39校)となっています。この結果からは、管理職が捉える若手教員の成長上の課題が、授業づくりにとどまらず、子どもや保護者との関わりを含む複数の領域に及んでいることが伺えます。これらはいずれも、状況に応じた判断が求められる場面での対応となるでしょう。
また、上記の他に「若手教員同士が学び合う機会」「支える側の時間の確保」「日常的に相談できる時間や場の確保」も挙げられました。これらは、若手教員の学びや周囲からの支援を進めるための環境や条件に関わる項目だと考えられます。


若手教員の学びを支える機会として、日常的な関わりが多く挙げられる
若手教員の学びを支える関わりとして多く挙げられたのは、「学年団での相談・支援」「管理職との面談」「日常的に声を掛け合う雰囲気」「校内研修での授業交流」でした。若手教員の学びは、特別な研修にだけでなく、日々の相談や声掛けによっても支えられていると考えられます。
アンケートから見えてきた若手教員を支える学校の今


管理職が捉えている若手教員の成長に関わる課題は、授業づくりだけでなく、児童生徒理解や保護者対応など、学校生活の複数の領域に及んでいます。一方で、学校内では、学年団での相談や面談、日常的な声掛けなど、若手教員の学びを支えるための機会があらゆる形で設けられています。こうした支えを実際の学びにつなげるためには、時間や場、学び合う同僚性についても考える必要があるでしょう。
次章では、管内の小・中学校4校の実践を通して、各校がどのように時間や場をつくり、学び合う同僚性を育んでいるのかについて紹介します。


各校の工夫 ~どのように時間や場をつくり、学び合う同僚性を育んでいるのか~
ここからは、若手教員が周囲と学び合いながら、日々の経験を力に変えていくために、各校がどのように時間や場をつくり、学び合う同僚性を育んでいるのかを紹介します。




まとめ ~若手教員の成長が、学校全体の力へ~
若手教員は、日々の経験と関わりの中で学んでいる
座談会では、先輩教員に具体的に尋ねる、授業を見たり公開したりする、研修や研究サークルで得た指導方法を試すなど、4人それぞれの学び方が語られました。そこに共通していたのは、教わった指導方法をそのまま取り入れるのではなく、自分の学級や目の前の子どもたちに合わせて試し、振り返りながら、自分なりの形に変えていく姿です。
回答のあった62校の管理職アンケートでも、学年団での相談・支援、校内研修での授業交流、日常的な声掛けなどが、若手教員の学びを支える機会として挙げられました。若手教員の学びは、研修の場だけでなく、日々の実践と周囲との関わりが重なる中で形づくられていくことが伺えます。
若手教員を支える仕組みを生かす、時間・場と学び合う同僚性
学校内には、管理職との面談や学年団での相談、校内研修など、若手教員を支えるための様々な機会があります。一方、座談会では、相談したいと思っても物理的に話せる時間や場所がないことや、仕事と直接関係のない何気ない会話が相談のきっかけになることも語られました。また、自分の考えをまず受け止めてもらえることやうまくいかなかった経験を一緒に振り返ることも、成長や挑戦を支えるものとして挙げられています。
若手教員を支える上では、そのための仕組みが設けられているかだけでなく、それが日常の中でどのように運用されているかにも目を向ける必要があるでしょう。また、各校の実践でもご紹介したように、短時間の情報共有や振り返り、役割分担の工夫などを通して、相談や学びにつながりやすい環境を整えていくことが大切になると考えられます。
若手教員の育ちから、学び合う同僚性について考える
中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」(令和4年12月19日)では、「新たな教師の学びの姿」について、日々の経験や他者から学ぶことを含む「現場の経験」を重視するとともに、対話や振り返りを伴う協働的な学びの必要性が示されています。また、「北海道における教員育成指標」でも、学校課題に応じた協働的な学びを組織全体で行い、学び合う同僚性の下で資質能力を高めていくことが重視されています。
若手教員の問いや試行錯誤に耳を傾けることは、ミドル・ベテラン、管理職を含めた教職員が、自らの実践や関わり方を振り返るきっかけにもなり得ます。若手教員の育ちを特定の担当者だけに委ねるのではなく、経験年数にかかわらず、互いに尋ね、試し、振り返ることのできる環境をつくること。それは、若手教員を支えるだけでなく、学校全体の学びを豊かにすることにもつながるのではないかと考えます。
座談会で出会った若手教員たちは、目の前の子どもたちのために、自ら問い、周囲から学び、試行錯誤を重ねていました。若手教員は既に学校を支え、これからの教育をつくっていく大切な一員です。その姿からは、これからの教育を担う力強さと、確かな希望が感じられました。本特集が、日々の関わりを見つめ直し、それぞれの学校でできる一歩を考えるきっかけとなれば幸いです。
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